優里さんの『ビリミリオン』という曲。
その冒頭には引き込まれる一節があります。
老人が君に言いました。残りの寿命を買わせてよ。50年を50億で買おう
あなたなら、50年の寿命を50億円で売るでしょうか?
おそらく、ほとんどの人が「売らない」と答えるはずです。
50年という時間は、お金には代えがたい価値があると感じますよね。
歌詞の内容もそのようになっています。
では、少し質問を変えてみましょう。
「あなたの1年を、1億円で買い取ります」
こう言われたら、どうでしょう?
「……それなら、売ってしまうかもしれない」
そう心が揺らいだのは、私だけではないはずです。
なぜ「50年50億」はダメで、「1年1億」ならアリなのか?
冷静に考えれば、50年50億も1年1億も、レートは全く同じです。
数学的には等価交換のはず。。
なのに、私たちの感覚は「No」と「Yes」で真っ二つに分かれてしまう。
この不思議な感覚の正体は、「時間」と「お金」が持つ価値の性質の違いにあるのかもしれません。
時間は、長くなればなるほど価値が加速度的に増していくように感じませんか?
1年と2年を比べたとき、2年の価値は単純に1年の2倍ではなく、それ以上に大きな可能性を秘めているように思えます。
50年という時間は、もはや想像もつかないほどの価値の塊です。
一方で、お金の価値は少し違うようです。
手元に1億円もらった嬉しさと、それが2億円になった時の嬉しさを比べると、喜びは単純に2倍にはならない気がしませんか?
もちろん嬉しいですが、0円が1億円になった時の衝撃には敵いません。
お金の価値は、ある一定の額を超えると、そのありがたみの上昇カーブが緩やかになるのです。
理論や数式だけでは測れない、この直感的な価値判断こそが、人間らしさなのかもしれません。
人間の感覚を理解すれば、コスパの良い買い物が可能
多ければいいってもんじゃない
お金の例のように、増やしていくことで満足度の幅が減っていくことを
限界効用逓減の法則
と言います。
デジタル大辞泉
ある財の消費量の増加に伴って、限界効用はしだいに減少するという法則。効用逓減の法則。
具体例で説明しましょう。
蒸し暑い夏の日の仕事終わり、喉がカラカラな状態を想像してみてください。
この時に飲む最初の一杯のビールは、まさに「五臓六腑に染み渡る」ような、最高の満足感をもたらしてくれますよね。
この満足度を仮に「幸福度+100」としましょう。
「最高!もう一杯!」
もちろん、二杯目も美味しいです。
しかし、最初の一杯ほどの感動はあるでしょうか?
喉の渇きは既に潤っており、満足度は一杯目ほどではありません。
二杯目による満足度は「幸福度+50」くらいかもしれません。
さらに三杯目、四杯目と飲み進めるとどうでしょう。一杯ごとのありがたみはどんどん薄れていきます。
五杯目になると「もういらない…」と、満足度がマイナスになる可能性すらあります。
同じビール一杯でも、それが何杯目かによって、得られる満足度はどんどん減っていく
これが限界効用逓減の法則です。
真のコスパとは?
多くの人が「コストパフォーマンス」を「価格の安さ」や「スペックの高さ」といった数字で判断しがちです。
しかし、本当に満足度の高い、つまり「真のコスパが良い」買い物をする鍵は、私たち自身の感覚の仕組みを理解することにあります。
10万円の商品と、30万円の最新フラッグシップモデル。価格は3倍ですが、体験の満足度も3倍になるでしょうか。
多くの人にとって、10万円の時点で得られる満足度は非常に高く、追加の20万円で得られる満足度は価格ほど大きくありません。その差額で旅行に行った方が、人生全体の幸福度は上がるかもしれません。
「これがあれば十分満たされる」 というラインと、
「これ以上はあまり幸福度が上がらない」という境界線を見極めること。
これが、数字だけでは測れない賢いお金の使い方です。
自分自身の感覚を理解し、満足度の伸びが最大になるポイントにお金を使うことこそ、最高のコストパフォーマンスを実現する秘訣なのです。
「たかが1年」という捉え方もできる
実は私にも、この「1年の価値」について忘れられない経験があります。
大学受験に失敗し、浪人した1年間です。
必死に勉強したものの、結果は現役時代より難易度の低い学部への進学。
入学後にも少し、私は「あの1年は無駄だった」と引きずっていました。
しかし冒頭で考えたように、1年は「売ってもいい」と心が揺らぐ程度の、ある意味「たかが1年」です。
そこまで思い悩む必要はないのかもしれません。
点と点がつながる瞬間
人生の面白いところは、「無駄」だと思った経験が、後に思わぬ形で役立つことです。
私の浪人体験がまさにそうでした
- 浪人時代:予備校で数学の本質的面白さに気づく
- 大学時代:数学科に進学し、集合論や論理学を学ぶ
- 社会人時代:データベースのアーキテクチャやSQLに興味を持つ
⇒その根底に大学で学んだ数学が深く関わっていた
5年以上の時を経て、浪人時代の「無駄」が予期せぬ「武器」に変わっていたのです。
今を生きるあなたへ
この経験から、過去との向き合い方が変わりました。
もしあなたの中に「無駄にした時間」や「もっと早く始めていれば…」という後悔があっても、自分を責める必要はありません。
無理に美化しなくていい。
こじつけなくていい。
ただ、そんな時間があったと受け止めるだけで十分だと思います。
大切なのは「今」から何を始めるか
やりたいことがある場合 → 全ての時間を注ぎ込んでみてください
やりたいことが見つからない場合
→ 焦る必要はありません
→ その代わり「未来のお金」と「未来の自由な時間」をコツコツ貯めておきましょう
いつか「これをやりたい!」が見つかった時、すぐに飛び込めるように。
大切な1年。だけどたかが1年、されど1年。
あなたの過ごした時間が未来でどんな価値に変わるかは誰にも分かりません。
だからこそ、過去に縛られず、今この瞬間を大切に、そして自由に進んでいきたいですね。